現場の裏話コラム|vol.25|競馬界の不測な事態:若手騎手の悲劇とベテラン騎手の意外な決断

現場の裏話コラム|vol.25|競馬界の不測な事態:若手騎手の悲劇とベテラン騎手の意外な決断

高知競馬の塚本雄大騎手が、レース中の落馬事故で亡くなったと報じられたのは3月25日。4月11日にはJRAの藤岡康太騎手が、4月6日の落馬負傷で重体となり、そのまま息を引き取った、と報じられた。
 
塚本騎手は25歳。藤岡廉騎手は35歳。ともにいかにも若過ぎる死だ。塚本騎手は高知競馬の若手のホープとして期待されていたし、藤岡康騎手も昨年マイルCSでGI2勝目を挙げ、キャリアハイの63勝をマーク。今年もそれを上回るペースで勝ち星を挙げていたところ。危険と隣り合わせとはいえ、あまりの唐突な死に、関係者もファンもショックを隠せないでいる。4月20日には、今度はトップジョッキーの一人である松山弘平騎手がゴール入線後に落馬して頭部を負傷。マイラーズCを予定していたソウルラッシュ(優勝)に騎乗が叶わず、今週末の春の天皇賞も乗り替わることが発表になった。他のジョッキー達にも動揺が広がっているようで、とにかく無事を願わずにはいられない。
 
そうしたショッキングなニュースが続いた中で、同じように唐突に騎手がターフを去ったという意味で、勝浦正樹騎手引退の報に驚かされたファンも少なくないだろう。
 1978年生まれの45歳。競馬学校騎手課程の13期生で、1997年にデビュー。4月7日時点で通算966勝。GI2勝を含む重賞は17勝。そろそろ調教師への転身を考えていい頃ではあるが、その準備のための決断かと思いきや、どうもそういうことではないらしい。長年、勝浦騎手を見てきたベテラン記者は言う。
「嫌気がさしたんじゃないかな。デビューしてすぐ活躍して、勝ち鞍もコンスタントに伸ばしてたのに、もともとヤンチャな面があってね。誰からも好かれるタイプではなかったし、コロナ禍の前後くらいから年間20勝を切るようになって、昨年は9勝止まり。一度そっぽを向かれたら、手を差し伸べてくれる人はなかなかいない業界だから。引退後の予定も決まってないらしい」
 
2019年以降は重賞も未勝利で、1000勝を目前にした騎手とは思えぬ失速ぶり。しかし引退後が未定というのも穏やかではない。
 「異例の引退発表の仕方がヒントかも」と前記の記者は言う。異例というのは他でもない。JRAの発表に先んじて、テレビ東京の競馬中継番組で、4月14日に騎手免許返上、を発表したことだ。
 「近々引退する噂は耳にしてた。ただ、寝耳に水みたいな感じのテレビ発表でしょ。JRAにもメディアに対しても、完全なツラ当てですよ。あげく清々してるだの、寂しさはまったくないだのと言いたい放題。昔馴染みの調教師も、嫌なことがあったって、少しでも支えてくれた人達には感謝を口にしないとなあ、って顔をしかめてた」

 引退会見の繋がりでテレビの解説者になるのか、それともいっさい手を引いて、元騎手として飲食店のオーナーにでも収まるのか。現時点では闇の中だ。それだけに若手騎手の有望株の死とは、全然種類の違う闇が感じられる。野に放たれたトラブルメーカーなどには、ならないことを望みたいが……。


美浦トレセン情報部:吉本