現場の裏話コラム|vol.35|JRAトレセンと外厩施設:人材不足の現状と課題
JRAのトレセンと言えば栗東、美浦の二つを指すが、この両トレセン周辺には、他にたくさんの〝トレーニングセンター〟が存在する。名称は様々だが、やっていることは概ね競走馬の〝育成〟施設である。ただ、その〝育成〟の在り方は様々だ。
最も多い施設としては、トレセン入厩前の最終調整を行う場所が挙げられる。一周の距離、コース幅員ともに立派なところでは、馬房も整えられ、各ステーブルが共同して借りるケースもあるが、その場合はトレセン内の厩舎の馬房の「空き待ち」に使われるケースも含まれる。もうひとつは、ちょっとした軽傷程度で、強い乗り運動を必要としない負傷馬の療養、言ってみればリハビリ施設として利用されるケースがある。
もっとも、美浦の場合、ほとんどの育成施設は小ぢんまりしたところが多い。栗東とて大手オーナーブリーダーが運営するトレセンが近くにあるものの、例外的に過ぎず、全体の数としては大差はない。
これらの育成場を総じて、〝外厩〟と呼んでいるわけだが、ここにきて大きな問題が浮上してきた。それはトレセン内の厩舎との関係性だけでなく、もっと基本的な、競馬界全体に関わっていることだ。育成専門の牧場だけでなく、会員制乗馬クラブなどに行ってみるとよくわかる。ほとんどの施設ではギリギリのスタッフが休みなく働いているし、JRAの厩務員募集のポスターや、詳しい案内パンフレットがクラブハウスに置かれている。そう〝人材不足〟なのだ。
JRAのスタッフの定年は満65歳(調教師を除く)。しかし、引退後の騎手を含め、助手、厩務員も臨時の〝補充員〟として再雇用されるケースもある。馬に乗る仕事は、他の仕事と比べると危険が伴うと思うが、わざわざ高齢者を再雇用するのは、離職者数を新人で補填できないからに他ならない。経験の浅い乗り手よりも、元ジョッキーの高いスキルを生かした方が合理的かつ効率的、というのは理にかなっているし、実際、騎乗中の事故の数もベテラン達の方が少ない。だから余計に調教師も人員確保のために再雇用に走る。いわゆる両者の「ウインウイン」が成立している、かのように見える。
しかし、ここにこそ本格的に深刻な問題が孕んでいる。要するに若手に達者な乗り手がいないのだ。このことが最も事故につながりやすいのに、業界全体でそのことに気付いていない。その原因として、「常に人材募集をかけている競馬学校を見ればわかるでしょ」と専門紙記者は言う。「入学のハードルが下がって、早く仕上げたいから実習過程も以前より短くなっている」。いずれ技術が伴わない乗り手が増え、調教内容、それに伴う馬の成長力にも影響を及ぼし始めるだろう。
そして一番の問題として、大手の育成牧場のスタッフとの給料面でのバランスが悪くなる。さて将来、〝外厩制〟がどうなっていくのか、という話につながるわけだ。
(この稿つづく)
美浦トレセン情報部:吉本