現場の裏話コラム|vol.26|輝きを求めての再挑戦:園田競馬への帰還

現場の裏話コラム|vol.26|輝きを求めての再挑戦:園田競馬への帰還

ダイユウサクといえば1991(平成3)年の有馬記念で、メジロマックイーン以下の強豪相手に大穴を開けたことで知られる。が、管理していた内藤繁春調教師も、世間をアッと言わせたことでは負けていない。定年間際になって、「ずっと馬の仕事に関わっていたい」という理由で騎手免許の再取得を宣言し、実際に受験するという行動に出たのだ。

 結果は70歳という高齢からか、筆記で出遅れ、実技の方も長期間、試みてなかった自力で馬に跨る、という初歩的動作がままならずに不合格。「老人の冷や水」などと陰口を叩くメディアもあったし、当時を知る美浦のベテラン記者も「聞いた時は耳を疑ったよ。関西には面白い人がいるもんだな、くらいに思った」と言う。しかし本人は自分の意志を貫いたことで「お騒がせして申し訳ない。悔いはありません」とさっぱりした表情で会見に臨んだ。その姿は実に爽やかだった。

 それから33年の歳月が流れて、やはり関西に所属する小牧太騎手が、似たような決断を発表した。JRAの騎手免許を返上して、園田競馬に復帰する、というものだ。
 小牧太騎手は現役の騎手。現役を退いて30年以上が経っていた内藤繁春師とは違うが、56歳という年齢はラストチャンスに近い、という点では同じだろう。小牧太騎手のラストチャンスというのは他でもない。「もう一度騎手として輝きたい」という願望だ。

 園田競馬時代に3000勝以上を挙げ、2004年にJRA移籍後も2008年にレジネッタで桜花賞制覇。スマイルジャックでダービー2着など華々しい活躍を見せるが、2016年頃から勝利数が減少。2020年にはJRA通算900勝を達成するが、以降は勝利数がひと桁に。ここ数年は騎乗数も激減し、忸怩たる思いで過ごしたことだろう。古巣への復帰はまさに「今一度輝くため」の最終決断である。
 今年のNARの第1回騎手免許試験(筆記試験)は5月。それを突破すれば二次試験として面接と実技試験が7月に行われる。騎手の筆記試験の内容は想像がつかないが、少なくとも専門的な設問について解答に窮することはないだろうし、二次試験については、免除されてもいいくらい。よほどのことでもない限り、今年中に「園田の小牧太」が20年ぶりに誕生することになるだろう。実現すれば「地方競馬でキャリアをスタートし、JRAに移籍後、地方競馬に復帰」という初の事例となるわけだが、いかなる事情があるにしても、そのチャレンジ精神を讃えたいし、今後の動向を注視したい。
 
賞金体系がJRAと地方では雲泥の差があるから、地方からJRAへの移籍を望むのはわかりやすいが、小牧のケースは逆のルートだ。それだけに、騎手の生き残り策として、盲点になっていたのだろう。
 NAR内では所属競馬場以外での短期間騎乗が活発に行われている。今後JRAとの連携で、そうした動きが広がるようなら、とにかく騎乗機会を増やしたい騎手達にとって有力な選択肢のひとつになるかも。小牧太本人もだが、彼の挑戦が今後、競馬界全体にどう影響していくのかも注目したいものだ。



美浦トレセン情報部:吉本