現場の裏話コラム|vol.20|復帰の舞台裏:騎手稼業と背後に潜む影

現場の裏話コラム|vol.20|復帰の舞台裏:騎手稼業と背後に潜む影

2019年デビューの大塚海渡騎手が、約1年4カ月ぶりに復帰することになった。本人にしてみれば、現実の日数以上に、長い長い道のりだったろう。
 
デビュー翌年の1月5日に落馬負傷。進路妨害で騎乗停止処分を受けるが、自身もその落馬で脳挫傷を起こし、療養のため長期休養に入る。復帰に時間を要すなか、事態が急変したのはほぼ1年が経った1月12日だ。所属する厩舎の木村哲也調教師から、パワーハラスメントを受けたとして稲敷警察署に被害届を提出。水戸地方裁判所土浦支部に損害賠償請求訴訟を起こしたのだった。
この件については、実は表沙汰になる前から美浦トレセン内では話題になっていた。デビュー当初から大塚の騎乗技術を危ぶむ声が多かったことは事実だし、他厩舎のスタッフから「ちゃんと指導しろよ」と言われれば、木村厩舎内で暴言めいた〝叱咤〟は日常的にあったはずだし、その時の感情に任せて、暴力行為に及んだ可能性も否定はできまい。

 それにしても、きちんと怪我を治して復帰すれば、一般の同年代より稼げるのが騎手稼業。損害賠償としての請求額である850万など、すぐに稼げそうに思えるが、それを棒に振ってまで裁判を起こしたのは、「辞めてもいい」覚悟あってのことと思われた。
 
ところが、解せないのはここからだ。第一回公判から被告の木村調教師が1度たりとも出廷しなかったのには呆れたが、略式とはいえ起訴された。この時点でほぼ有罪が確定するが、後に10万円で示談が成立。この示談額がまず不自然だったが、木村師サイドからの謝罪があったことを大塚サイドが表明。それにしても額が安過ぎるが、それはつまり、大塚に騎手復帰の意志があったからなのだろう。これがまた解せないのだ。
 
調教師と騎手は、今の時代も師匠と弟子の関係には違いない。師匠を訴えた弟子が、何事もなかったように現場に戻れるだろうか。大塚はフリーになっているから、そうした関係は断たれているが、他陣営とて厩舎内のトラブルを裁判沙汰にした大塚への心象は、良くなりようはあるまい。そうした事情もあって、1年4カ月ものブランクを超えての騎手復帰については、早い時期からいろいろな噂話がトレセン内で飛び交っている。
 まずひとつは、騎乗技術が未熟だった若手が、実戦経験を積むことなく復帰する。脳挫傷の影響で機能障害が云々される報道もあったし、「普通に怖いよね」と口にする騎手が少なくないという。
 
そしてより興味深いのが、示談成立に木村師のバックにいる大手オーナーブリーダーが関与しているのでは、という噂。子飼いの調教師が起こした不祥事だけに、あり得ない話ではない。が、そこまでして木村師を守る意味はどこにあるのか、だ。
 
この件、思ったより根深いことかもしれない。木村師と大手オーナーブリーダーの関係性が崩れた時、はたしてどうなるのか、という意味で。表沙汰になるかどうかは、例によって怪しいところだが……。

美浦トレセン情報部:吉本