現場の裏話コラム|vol.19|競馬カレンダーの変遷とセレモニー:独自の年間リズム
いわゆる〝競馬カレンダー〟と呼ばれるものにはいろんな種類がある。それは一般のカレンダーが日曜始まりなのに対して、競馬は月曜始まりが主流、なんてカレンダーそのものの見た目を言っているわけではなく、意識のうえでの年間スケジュールのイメージのこと。一般社会とは一風違う視点の話だ。
まず一つ目は、通常のカレンダー通り1月の金杯にスタートして、12月の有馬記念で終了するケース。これが大きなベースになっているのは間違いない。
二つ目は、ダービーが終わった時がその1年の終わり、というサイクルのケース。「競馬がダービー中心に回る」という古典的な考え方によるものだ。
そして三つ目は、一般社会と同じく、年度末で1年を区切るケース。もっぱらJRAの都合、事情などが影響していて、2月から3月に区切られるパターンだ。
大きくこの三つに分けられるのが、定番の競馬サイクルと言えるのだが、結構地味に感じられる三つ目のパターンが、実はJRA独特の風物詩として機能している。
年度始めと年度末で括るケースは、一般的な感覚で言えば、学校制度の4月始業式、3月終業式のパターンだし、企業や個人経営の店舗等なら、税金の支払いがある決算期としての3月は大きな節目になるだろう。
しかし、競馬における年度始めと年度末は2月と3月の区切りになる。それは新人騎手のデビューが3月であり、一方で、2月末で定年を迎える調教師が引退。騎手免許の更新も同じタイミングのため、調教師に転身する騎手は引退することになる。
そして調教師の定年引退によって馬房に空きが出るわけだから、新たに厩舎を構える調教師にとっては、騎手同様に〝新人〟としてデビューする。ファンにとっては、まさに出会いと別れのシーズンなのだ。それに合わせたセレモニーも行われる。今年のように、騎手としてダービーを勝ち、調教師としてもGIを勝ったような人物が複数いると、盛大なものになるのは当然だ。
が、その引退式が、今年は月が替わった3月3日に行われた。これに違和感を抱いたファンがいたかもしれない。
今年はオリンピックが開催される〝うるう年〟で、2月29日は木曜日。その日に週末の出馬投票をした場合、成績欄には投票した調教師名が記載される。実質の引退日が3月3日で、その日に引退式が行われたわけだ。
従来は2月末の開催日が引退日、という扱いだった。しかし水曜日に調教、木曜日に出馬投票を引退する調教師が行ったとしたとしても、出走時は新規調教師の管理馬扱い。このルールの方がおかしかったのだ。
うるう年の29日が木曜日だったことで実現したルール導入。盛り上がるセレモニーを冷めた目で見ながら「JRAにしては珍しいケースだよ」と口の悪い記者連中は悪態をつくが、しかし新人騎手紹介と、引退する騎手、調教師のセレモニーが同じ週に行われることに、それこそ妙な違和感を抱いたオールドファンもいたかもしれないな。
美浦トレセン情報部:吉本