現場の裏話コラム|vol.5|関東馬復権の影にあの外厩と社台の影
年間の全勝ち数で栗東が美浦を上回る、いわゆる〝西高東低〟状態は、平成に入ってすぐに始まった。顕著になったのはトウカイテイオーが2冠を制した平成3年。以降は平成8年まで関西馬がダービーを勝ち、一年をおいた平成10年からは、平成21年までの長きにわたって関西馬がダービーを制した。
その間は、サクラローレル、エルコンドルパサー、タイキシャトル、シンボリクリスエス、ゼンノロブロイといった年度代表馬が登場して美浦の面目を守っていたたが、サクラ、ゼンノ以外は外国産馬。もうひとつ「美浦組」の印象が薄かったのは否めない。
その年度代表馬に関しても、平成17年のディープインパクト以降、平成26年までの9年間は「栗東組」から選出された。〝西高東低〟はすっかり定着し、話題にすら上がらなくなってしまっていた。
ただ、平成25年から4年連続で美浦組が皐月賞を制し、27年のドゥラメンテはダービーも制して2冠馬となった。同じタイミングでアユサンが桜花賞を勝ち、その後、アーモンドアイ、グランアレグリアが続き、令和4年のスターズオンアースはオークスも勝って牝馬2冠を達成。年度代表馬の方でも、アーモンドアイ(2度)、エフフォーリア、イクイノックスと、過去5年で4度、美浦組から選出されている。
この流れは明らかに、美浦組の復権ムードをイメージさせるが、一体、何が起こっているのか。「単純に喜べないところがある」というのは美浦の重鎮関係者だ。
「ひと口に言ってしまえば、ノーザンファームの事情ですよ。滋賀のノーザンファームしがらきと、福島のノーザンファーム天栄。この育成牧場の2大拠点のパワーバランスが崩れてきたってこと。天栄に入れてくれ、という馬主さんが増えてきた。同じグループ内の一口法人ですけどね。一応、お得意様のたっての要望だから無下にも断れない。そこへもってきて、美浦の関係者に強いつながりのある人が多い社台ファームが、ここにきて盛り返してきた。自然に美浦組にいい馬が揃うようになったってことです」
結局は大手の匙加減、ということか。
確かにトップクラス以外の勝利数では、まだまだ栗東組優位の傾向は揺るがない。単純に〝西高東低〟が崩れきた、というわけではないようだ。もちろん直接的に馬券検討を見直せる、といった話でもなさそうだ。ただ、先の重鎮関係者はこう付け足した。
「美浦の坂路が全面改修されて、最大勾配が栗東とほぼ同じレベルになった。まだ手探り状態で、本格的に使っている厩舎は少ないけど、概ね評判がいい。うまく使えれば、いずれ効果が表れてくると思う。〝西高東低〟が崩れて、本当に勢力図が変わるのはそれからじゃないかな」
厩舎棟も含めたトレセン全体の改修工事が終わるには、あと数年かかる。その頃には数字の上でも、わかりやすい形で美浦組の巻き返しが見られるのだろうか。
美浦トレセン情報部:吉本