現場の裏話コラム|vol.30|競馬の新年度と顕彰馬選定の課題:名馬たちの評価に迫られる制度改革
ダービーが終わると競馬カレンダー的には〝新年度〟になる。新馬戦がスタートし、新種牡馬の産駒達が姿を見せて、次の時代の競馬をどう彩るのか、そういうスター候補がはたしているのかどうかに興味が移る。
しかし近年、6月になるとしばしば話題になるようになったことがある。新しく顕彰馬が選定されるかどうか、である。
年度代表馬の発表は年が明けてすぐだが、顕彰馬は年明けだったり5月だったりと、きちんと決まっていなかった。それが近年は6月に定着。見方によっては、競馬カレンダーの年度替わり、に設定されたわけだ。
そういうGIの谷間的なタイミングだからこそ、顕彰馬選定の話題は、これまで以上にヒートアップすることになった。近年の投票内容に、投票者に名を連ねる記者達からも、批判が噴出しているのだ。
そのきっかけになったのはキタサンブラックだった。選考対象になった初年度、選出に必要となる75%の得票率に5票ほど届かずに選から漏れた。それが問題視された。
第一報を聞いた時は、この国際化の時代に海外遠征に目もくれず、国内だけで走り続けたことが嫌われたのか?と邪推したが、翌年は80.6%の得票率でアッサリと選出された。その時の違和感が、もっとストレートに露呈したのがアーモンドアイの時だった。
3歳での牝馬4冠はもちろん、GIを歴代最多の9勝していることも、選定基準を楽にクリアしている。そのうえ世界中がコロナ禍に揺れた時代に、無観客で続けられた競馬人気を支えた、という功績も大きかった。それなのにキタサンブラック同様、1年目は選から漏れて、翌年アッサリと選出された。
そして史上3頭目の無敗の三冠馬コントレイルも、投票対象になった昨年に落選。2年目の今年、晴れて選出されている。
この一連の事態について、選考基準やルールに不備があるのではないか、という意見は長く議論されてきた。そして中堅レベルの記者達は、原因を冷めた表情で口にする。
「投票対象になったことを知らない連中がいるんです。投票に関する資料は毎年JRAから送られてきますが、ご丁寧に過去の得票数や、新規に選考対象馬になった馬を表にしたものもある。それを読んでいないんです。そうじゃないと、どんな天邪鬼でも、4頭投票できるルールで、アーモンドアイを入れない理由は考えられない。要は顕彰馬の投票をする資質がないってこと。実際、年度代表馬の選考者達より、年配の比率が高い。それが今年、是正されたからこそ2頭選出されたんでしょう。結果的に70周年に花を添えられたから、JRAの担当者らも喜んでますよ」
JRAにとっては〝渡りに船〟だったかもしれないが、今年選出されたもう一頭のキングカメハメハにも追い風となった。何しろ選考対象の最終年だったのだ。もし選考委員が昨年と同じ顔ぶれだったらどうなっていたかわからない。そう考えると、やはり投票者は定期的に見直す必要があるんじゃなかろうか。
美浦トレセン情報部:吉本