現場の裏話コラム|vol.9|JC勝利の涙の裏にある「ルメール」「木村調教師」それぞれの事情

現場の裏話コラム|vol.9|JC勝利の涙の裏にある「ルメール」「木村調教師」それぞれの事情

現場の裏話コラム|vol.9|JC勝利の涙の裏にある「ルメール」「木村調教師」それぞれの事情

ジャパンCをイクイノックスが圧倒的1番人気に応えて快勝した。
リバティアイランドとの現役最強馬対決が実現し、タイトルホルダー、ドウデュースといった人気GI馬が揃った注目のレースだったが、蓋を開ければ3番手からアッサリ抜け出して4馬身差の大楽勝。ビックリする時計でもなかったが、溜息が出ると言うより、拍子抜けするくらい、一頭だけ次元が違った印象だった。

それはいい。強い馬が強い競馬をするというのも競馬の醍醐味ではある。だから細かいことはいいとして、違和感があったのはレース後に、鞍上のルメールと木村調教師が泣く姿だ。それも2人揃っての号泣である。キャリアの浅い騎手、調教師なら、この勝利に感極まるのもわからなくはないのだが、それぞれビッグレースの常連だ。しかし、置かれている2人の現状を探ると、どうやら2人の涙には、それぞれ別の事情があるようだ。

まずルメール。
JRAだけで重賞145勝を挙げ、ジャパンCだけでも今回で4勝目というトップジョッキーである。確かに母国での低評価に精神的なダメージを受け、日本で骨を埋めるくらいの覚悟でJRA免許を取得した。そうした経緯があるにせよ、すでに生涯獲得賞金は(しっかり計算する気も起きないが)300億円を優に超えているはず。5億円の賞金を手にしただけで涙は流すまい。「馬への感謝、競馬を支えてくれるファンへの感謝」には違いないだろう。が、美浦の重鎮関係者の一人は「ここ数年来、子供をフランスの教育機関で学ばせたいと言い出していた。もしかすると今回のジャパンCを節目だと考えていたかも」と推察する。つまり、日本を離れる時期が近付いた、ということか。なるほど来年は彼も45歳になる。そうしたことを考える年齢ではありそうだ。

次に木村調教師。
2011年に免許を取得し、4年ほど重賞は未勝利。しかしノーザンファームの支援を取り付けると2015年にアルビアーノで重賞2勝を挙げ、翌16年と17年にゼーヴィントで2勝。18年ステルヴィオのマイルCSでGI初制覇。その後、順調に勝ち鞍を伸ばすようになる。が、一方では、オーナーサイドの期待ほどには活躍馬を出すことができずにいた。その間、所属騎手へのパワハラ問題なども重なり、業務とは違う部分でも評価を落とすなかで、〝ラストチャンス〟的な扱いで任されたのがイクイノックスだったのだろう。ダービーこそ獲れなかったが、3歳時GI3勝で年度代表馬に。有馬記念の結果次第ではあるが、2年連続での受賞はほぼ間違いないだろう。

「何よりも無事に牧場へ返せたことの安堵感からくる涙だったんじゃないかな。それができなかったら、来年から〝ノーザンの筆頭厩舎〟の座はなかったでしょう。もっとも、これでお役御免の可能性もあるだろうけど」

とは先の重鎮関係者の弁だ。
さて今後、である。
ルメールの去就、そしていろいろとお騒がせな印象のあった木村師が、どう変わっていくのか。
先々のJRAの勢力図に影響しかねないだけに注目だ。

美浦トレセン情報部:吉本