現場の裏話コラム|vol.55|競馬メディアの逆転現象:SNSが変えた情報のあり方

現場の裏話コラム|vol.55|競馬メディアの逆転現象:SNSが変えた情報のあり方

 「オールドメディアvsインターネット」の話は、何年も前から取り沙汰されている。前回も、そして今回のアメリカ大統領選でも取り上げられ、ますます深刻な状況が表面化しているが、日本国内の選挙においても飛び火しているのはご存じの通りだ。とにかく、ひと言で情報にデマが混じりやすくなった。
 
 競馬の世界でも、それは全く同じこと。実際にX(旧twitter)などでは、連日のように有力馬の次走報であるとか、前の週のビックレースの分析、更に解説といったものが配信されている。半分位は元トラックマンといった〝準関係者〟が担当しているのは想像できるし、匿名で書かれているアカウントについて、「これはどこどこの新聞社に居た誰某ではないか」と言うようなことが、犯人探しのように飲みの席などで語られている。逆に言えば、プロだと見違えるほどに内容がしっかりしていることの証左でもある。
競馬のような対象は、日々体調が変わったりとか予定が変更されたりとかするから、毎日の更新が求められる。つまりオールドメディアはネットになかなか立ち打ちできない。この10年……いや20年間は、ずっとそのことに悩まされてきたであろう。
 これに対抗するべく、オールドメディアは各社、個々が必死になってSNSの世界で何かしらのことを発信しているが、正直ろくな内容ではない。ネットリテラシーといったものが希薄な連中が多いし、ベテランの部類に入りつつある中堅記者達も、単にフォロワーの数で個人アカウントの価値を競っているだけ、といった輩も少なくない。
 業務上、トレセンから金曜の午後に地方競馬場に行くのは容易ではないが、わざわざそこに顔を出し、営業で訪れた女性キャスターとツーショット写真に収まることに躍起になる。それを「熱心な仕事ぶり」と考える競馬ファンがたくさんいるのだから、連中が「チョロいもんです」と嘯くのもムリはない。SNSでフォロワー数を競っている記者のアカウントを覗いてみればわかることだ。
 
 それはそれで結構だし、フォロワー数で一喜一憂するのも個人の自由ではある。ただ、専門紙、スポーツ紙の記者達が、情報をSNSで発信するようになって久しいが、所属する新聞社の売り上げが劇的に伸びた、と言った話を耳にしたことはない。本業をどうしているのか、記事を見ていればバレバレなのだから、メディアの信用を落としているようなもの。救いようがない。むしろ足を引っ張っている存在ですらある。
 そこへ一口クラブ会員のインフルエンサー達が、情報提供者として登場してきた。彼らは自分のアカウントから牧場ツアーの内容や、クラブ所属馬の休養、次走情報等も流している。当然のことながら出走予定などは、一般ファンはもとより、評論家やメディアよりも詳しく、早かったりもする。そこでメディアとファンの立場が逆転現象を起こすと、デマや怪しげな情報に姿を替えることも出てくる。ネットリテラシーは競馬ファンにこそ求められている、ということなのだろう。


美浦トレセン情報部:吉本