現場の裏話コラム|vol.52|派手なパフォーマンスの是非:リスクとプロ意識のはざまで
先週のマイルCSでは、ソウルラッシュが悲願のGI制覇を成し遂げた。2、3着には人気薄が入り、高配当での決着。能力的にソウルラッシュはいつGI制覇を成し遂げてもおかしくない馬だっただけに特段驚きはないが、ファンの中で注目を集めたのは団野騎手の派手なガッツポーズではないだろうか。「ゴール前にかなり派手にやっていたからね。その後、過怠金の5万円が科せられたのも仕方がないところだろう。思い出されるのは、2014年の高松宮記念。コパノリチャードに騎乗したM・デムーロ騎手が両手を離して飛行機ポーズをして、過怠金10万円を科せられたことがある。それを思い出したファンも多いのではないだろうか」と某栗東のトラックマンは語る。
さて、こうした行為は実際にどれくらい危ないのだろうか。栗東の厩舎関係者に聞いてみると「自分の馬のことを考えると絶対にやらないでほしい」という。その理由は故障のリスクがあるからだ。「ヨーロッパでは、ゴール前後にこうしたアクションを起こして、そこで馬がバランスを崩して予後不良になったケースもあるんだ。乗り手が突然立ち上がるとか、両手を離すとか、馬は普段経験していないアクションに対してものすごく敏感に反応する。川田騎手はゴール後に絶対にガッツポーズをしないことで知られているし、武豊騎手も昔から大きなアクションはしない。興奮してああなってしまうのはわかるけど、厩舎スタッフとしてはやめてほしい」と話す。
一方でこんな声も聞かれた。これは栗東の若手ジョッキーの話である。「団野さんのガッツポーズくらいなら自分でもできそうだけど、デムーロさんの両手を離して飛行機ポーズはちょっと怖いですね。ジョッキーは手綱で馬をある程度コントロールする。もちろん、馬に乗るときに両太ももの筋肉とかもすごく使うけど、やはり両手がないと心配ですよ。あれができるのはかなりの体幹がないと難しいんじゃないですかね。以前、先輩ジョッキーが調教で誰も見ていないときに試そうと思ったけど、怖くてやめたと言っていました」。
団野騎手のひょんなことから、デムーロ騎手の体幹にまで話がそれてしまったが、やはり外国人の筋肉は普通とは違うということか。いずれにしても、アンケートを取った関係者のうち98%が「ああいう派手なアクションはやめてほしい」という答え。団野騎手も今回の過怠金や関係者からの指摘などで、今後は少し控えめなゴール前のガッツポーズになるかもしれない。
栗東トレセン情報部:田所