現場の裏話コラム|vol.51|不祥事続出の競馬界に問われる倫理意識とその行方
よくまあ次から次に出てくるものだ、という印象があるのが騎手の不祥事の話題だ。そろそろ1年を振り返りたくなる季節になったが、2024年といえばパリオリンピックが開催された年。その大会で「総合馬術競技における93年ぶりのメダル獲得」という祝福ムードに包まれた競馬界隈だったが、その同じ年に、競馬開催の根幹を揺るがすニュースが頻発したのは、つくづく皮肉なものだ。
スマホの不正使用が発覚して騎乗停止処分を受けた永野猛蔵騎手が、騎手免許を返上して、事実上引退することが報じられた。スマホ使用とは別件で、骨折休養中に親戚への予想行為が発覚したのだという。同日、まったく別件ながら同期の横山琉人騎手もスマホの不正使用が発覚。また若手の有望株の筆頭である佐々木大輔騎手も、先に処分を受けていた小林勝太騎手のスマホ使用の際に「間接的に関わった」として、ともに騎乗停止処分になった。まさにキリがない状態だ。
そして何より〝不祥事〟という括りで最も驚かされたのは、上村洋行調教師による〝調教師バッジ偽造〟の事件だ。JRAの発表によれば、東京競馬場で調教師記章の拾得物があり、管理番号から上村師のものであると特定。本人に確認したところ、業者に偽造品作成を依頼し、それを使用していたのを認めたということらしい。「立ち入りを禁止していた区域への不正侵入を目的としていない」という判断で、罰金50万円を課せられた。
この50万円が緩いか厳しいかの議論をするとすれば、まあJRA内部の問題であるから50万程度の罰金でとどまった、と考えるのが妥当なところだろう。本来なら、もっと大きな問題と捉えていいからだ。
引退して何年にもなる高齢の元記者は「第一報を聞いた時、懐かしい笑い話を思い出して、つい笑っちゃったよ」と言う。どういうことかと問うと、「コーチ屋が競馬場を跋扈していた大昔の話さ。我々が使ってた記者章を、ある暴力団の構成員が両手いっぱいに持ち歩いてた。ビックリして恐る恐る事情を聞いたら、お前のところの若い衆の借金の肩代わりに、1週間ほど記者章を借りたんだよ。心配すんな、お得意さんにプレゼントするだけだ、って」とニヤッと笑ったのだ。
まさか今回の背景に、似たようなシチュエーションがあるとは思えないが、さすがに怪しいことが疑われる案件ではある。上村師といえば近年、厩舎の成績が急上昇している。コンプライアンスの遵守、という部分で気の緩みが生じた可能性もあるかもしれない。元記者は続ける。「お灸をすえたにしては金額が安過ぎる。そんなんだから若い騎手の規律も乱れるんだろうよ。大体、上村だって元騎手だしな」と意味深なことを口にした。
そう言われてみれば先に引退した藤田菜七子も、急死した角田大河も、現在騎乗停止中の水沼元輝も、所属厩舎の師匠は騎手上がりの調教師だ。案外、一連の不祥事の本質を突いた意見だったりするのかもしれない。
美浦トレセン情報部:吉本