現場の裏話コラム|vol.50|エリザベス女王杯を巡る波紋:ノーザンファームの戦略がもたらす影響
今週から怒濤のGIラッシュが始まる。競馬業界が一番盛り上がるシーズンなのだが、栗東トレセンでは「こんなことをされたら盛り上がらないよね」というマスコミの声が数多く聞かれた。「今週のエリザベス女王杯はひどいメンバーだね。GI馬が2頭しかいない。そりゃ、栗東のマスクトディーヴァの故障やリバティアイランドの牡馬挑戦はわかるけど…。昨年の覇者ブレイディヴェーグが出走しないのはおかしな話でしょ。まあ、裏事情を聞けば納得はするんだけど、こういうやり方は絶対に競馬全体を盛り下げていく」と某日刊紙の記者は語る。
その「裏事情」というのが、過去にも多く見られた「ルメール・ファースト」。前出の記者はこう続ける。「ルメール騎手を乗せたいがために、本来の適性とは違うレースを使ったりする。こういうケースは過去にあったけど、ブレイディヴェーグはさすがにないでしょ。今週のエリザベス女王杯でルメール騎手はレガレイラに騎乗する。それを理由に、昨年の女王をマイルCSへスライドさせたわけ。報道では『レース期間が詰まるから、エリザベス女王杯ではなくマイルCSを選んだ』と報じられているけど、ルメール騎手のエージェントによれば『使い分け』だそうだ」。
レガレイラは昨年のホープフルSで牡馬相手にV。女傑誕生かと思われたが、その後は期待ほどの成績を残せていない。今回のエリザベス女王杯が勝負なのは確かだろう。一方のブレイディヴェーグはマイルでの出走歴がゼロ。確かにマイルCSへ出走するのは不自然で「ルメール・ファースト」が発動したと考えて良さそうだ。ジャパンCには秋華賞馬のチェルヴィニアが出走するのだが、これもまたルメール騎手。有力牝馬がこうもちらばってしまっては、エリザベス女王杯がしらけるのも当然だろう。
前出の記者はさらに不満そうな口ぶりで続ける。「ノーザンファームのこうした策が競馬人気の低下を招いている。売り上げこそ順調だが、これはJRAのプロモーション努力も大きいだろう。一方で『最強決定戦的なレースが減っている』『使い分けのせいで異種格闘技戦のような、胸高鳴るレースが減っている』という声が多いのも事実。うちのメディアでのアンケートにも、こうした声がある」と話す。「個人的にレガレイラはさておき、これでブレイディヴェーグが勝つようなら、しらけるからね。そういう風に思っているファン、そして関係者が多いはず。ブレイディヴェーグには非ノーザンのライバル陣営からそれなりの包囲網が敷かれるんじゃないか。まあ馬券的には消えてくれればおいしいんだけど」。ルメール・ファーストの抵抗勢力がどんな走りを見せてくるのか、注目したい。
栗東トレセン情報部:田所