現場の裏話コラム|vol.46|凱旋門賞制覇の夢と日本競馬が抱える課題
先週の日曜日には凱旋門賞が行われた。日本の悲願といわれてもう何年たつだろうか。これまでもエルコンドルパサーやオルフェーヴルといった実力馬があと一歩と迫りながら、いまだに勝利までは届いていない。今回は日本からシンエンペラーが参戦。先の2頭ほどの実績ではないが、前哨戦の愛チャンピオンSで3着と上々のローテ。なおかつ兄が凱旋門賞馬のソットサスで、血統的にも大きな期待が寄せられていたが…結果的には12着だった。栗東トレセンの某トラックマンはこのレースを振り返る。
「担当者にLINEで馬の状態を聞きましたが、前哨戦を使って間違いなくアップしていたと。それだけに僕も紙面上では◎を打ったんですが…。直線までは悪い感じではなかったのに、最後は完全なスタミナ切れで失速しました。翌週のトレセンで厩舎関係者とも話をしましたが、やはり道悪に対応できなかったという判断のようですね。かなり馬場が悪くて、時計もかかっている。超消耗戦。もはや血統だけではカバーできない部分があるのでしょう」と肩を落とした。過去に凱旋門賞に挑戦歴を持つトレーナーにも聞いたが、「ロンシャンの馬場は特殊。他の国の道悪とも種類が違う印象がある。日本でどれだけ道悪をこなそうと、あの馬場に対応できる馬を作るのは不可能に近い。エルコンドルパサーのように長期滞在して、体を欧州スタイルに変えていかないと厳しいだろう。一方で、あの長期滞在には相当な資金が必要。クラブ馬主や通常の個人馬主ではなかなか理解が得られない」と分析した。
こうなってくると凱旋門賞制覇は近いようで遠い、ともいえそうだ。しかし前出のトレーナーは「藤田オーナーの資金力なら…」と言葉をつづけた。今回のシンエンペラーを所有する藤田晋オーナーはサイバーエージェントの社長。ウマ娘でもかなりのお金をもうけており、セレクトセールで高額馬をバンバン競り落としている。「今までもサトノの里見さんなど、有名馬主は数多くいた。資金では負けていなかった。ただ藤田オーナーの場合、ノーザンファームの吉田俊介副代表と年齢が近く、一緒に食事をしたりする仲。売り手と買い手、というよりも友達に近いような感覚がある。当然、俊介氏の悲願が凱旋門賞であることは知っているはず。今は藤田オーナーも『まずは日本のGIやダービーを勝ちたい』と言っているが、そこをクリアすれば次の夢は『凱旋門賞』になる。友人である俊介氏のためにも、採算度外視で長期遠征する可能性はあると思う」。それが何年先になるか、来年か10年後か。なんとも言えない部分はあるが、藤田オーナーがもしかしたら日本の夢をかなえるキーマンなのかもしれない。
栗東トレセン情報部:田所