現場の裏話コラム|vol.41|競馬専門紙の未来:紙媒体の終焉とデジタル時代の波

現場の裏話コラム|vol.41|競馬専門紙の未来:紙媒体の終焉とデジタル時代の波

 9月に入って、本年度の下半期がスタートした。その仕事始めの2日。関東圏の報道界隈に衝撃的なニュースが駆け巡った。タブレット夕刊紙の老舗〝夕刊フジ〟が1月に休刊する、というのだ。更に、〝トーチュウ〟こと東京中日スポーツも、ほぼ同じ時期に休刊になることが報じられ、美浦のベテラン記者達からは「日刊スポーツは印刷事業から撤退するみたい」という噂も流れている。
 もっとも、実はスポーツ新聞各紙は、ここ10年くらい、ずっと似たようなことが囁かれ続けてきた。実際問題としては北海道版のサンスポは休刊になったし、全国版の方も電子版への移行が急ピッチに進んでいるうえ、こと競馬に関しては特別サイトを立ち上げ、情報を有料で提供するようなビジネスモデルを模索中だ。同様なことはデイリースポーツやスポーツ報知などでも見られるし、電子版の整備に早くから取り組んできた最大手であるスポーツニッポンでも同じだ。
 
 主催者の関連企業であるJRA-VAN(JRAはあくまで別企業と主張しているが)があり、ネットケイバがあり、ここにきて他にも競馬関連のネットメディアが立ち上がっているから、競馬ファンにしてみれば、スポーツ新聞社のネット進出は何の影響もないだろう。スポーツ新聞各紙がウェブ運営に乗り出すことで、むしろ情報を入手する選択肢が増えることを歓迎こそすれ、毛嫌いするところはまったくないはずだ。
 深刻なのは相変らず紙媒体にこだわりを持ち、明らかに電子版への移行が遅れている競馬新聞(専門紙)の方だろう。これまでは情報の〝専門性〟を生かして紙面に〝予想〟を載せるスタイルを〝売り〟にしてきたが、スポーツ紙が電子版で〝専門情報〟をもとにした〝予想〟を提供し始めた以上、競馬専門紙としての特異性であるとか、存在意義は薄れてきたとしかいいようがない。
 しかも、夕刊フジ休刊のニュースでも少し触れられていたが、ライバル社である「日刊ゲンダイ」と「東京スポーツ」とは、配送業務を合同で業者に発注している。つまり一社が手を引けば、同じ発注額を2社で分担しなくてはならず、本業とは関係のないところで負担が増すことになる。
 
 同じようなことが、数年前から大きな課題として専門紙業界に横たわっている。現在は日本競馬新聞協会、東京競馬新聞協会とで6社あるが、運営レベルの実体は3社に過ぎない。ひとつの専門紙が姿を消せば、他の専門紙への負担が重くのしかかる。
 馬三郎、競馬エイトの2社は、親会社がスポーツ新聞系だから無関係か、と言えばそうでもない。前述の通り、スポーツ新聞各社は劇的に形態を替えつつある。「将来どうなるのかは、専門紙だけの問題じゃないですよ。うちもこの先どうなることやら」という不安の声は、そこかしこから聞こえてくる。
 紙で読む競馬新聞に、他にはない価値が認められた時代ならいざ知らず、ここにきての紙媒体の休刊が相次ぐ流れを、いかに止めるのか。業界存続の危機、くらいの場面を迎えているのかもしれない。

美浦トレセン情報部:吉本