現場の裏話コラム|vol.18|師弟の絆: 調教師と騎手の最後の共演
定年を迎える調教師は今週の競馬がラストとなる。
栗東トレセンでも名トレーナーを含め、各関係者が最後の挨拶で調教師たちのもとを訪れていた。
ジョッキー時代にはナイスネイチャとのコンビでファンを沸かせた松永昌博調教師も今週でラスト。「人望のある調教師だった。非常に穏やかな性格だし、人間味があったね。やめてしまうのはさみしいね」と語る厩舎関係者も多い。
そんな松永調教師の人柄を示すようなエピソードが最終週に待っていた。
本日2月29日に名古屋競馬場で行われたかきつばた記念・交流GIIIにラプタスを送り込んだのだが、ジョッキーには厩舎所属の森一馬騎手が騎乗するのである。
森騎手は現在、障害で活躍するジョッキーだ。
栗東の事情通の一人は言う。
「調教師に聞いたら、どうやらオーナーに頼み込んで弟子の森騎手を乗せたみたいだね。あのひとらしいと言えばそれまでだが、人との付き合いを大事にする人らしい、いいエピソード。他のマスコミ関係者も応援していましたよ」と語る。
一方、当人の森騎手もこの指名にはものすごく恩義を感じているようだ。
前出の栗東の事情通はこの件について、森騎手ともじっくり話したという。
「彼はこれまで障害でJGI・2勝を含めて重賞11勝を挙げている。今回は自身にとっても平地重賞初Vがかかる一戦だから気合が入っていたね。先週の24日には障害で通算100勝を挙げた。彼は身長が高く、171cmもある。
もともとは平地でスタートしたのだが、体格的に大変な部分があったりして、2年目から早々に障害へ積極的な騎乗をしている。調教中の落馬でケガをしたり、いろいろと大変な時期もあったけど、そんなときでも松永調教師は優しい言葉をかけていたようだ。森騎手も『今の自分があるのは松永先生のおかげ。感謝してもしきれない』と言っているくらいで、師弟の関係はかなり深いものがある。取材対応なども含めて人間的にもしっかりしているのは、やはり師匠に恵まれたからではないか。
障害で100勝をするのは本当に大変。1日に1~2レースしかないわけだから、もっと評価されてもいいと思う」
と話す。
障害路線でトップジョッキーに上り詰めた森騎手だが、その陰には松永調教師の温かいサポートがあったといっていいだろう。
先ほどレースを終え、結果は残念ながら「9着」であったが、最近は社台系が幅を利かせて、人と人のつながりが希薄な業界になっているからこそ、今回のようなエピソードは大事に語っていきたい。
栗東トレセン情報部:田所